廊下の奥に視線を戻すと女が居た。
ごく普通の女だ。40代ぐらいのどこにでもいそうな中肉中背。顔も特に特徴はないし、服だって普通だ。
グレーのトレーナーに黒いロングスカートを履いている。あれはたしかプリーツスカートってやつだ。
だが、その女に強烈な違和感がある。だからその違和感の正体に気付きたいという気持ちと、一刻も早くここから逃げ出さなくてはという気持ちで矛盾していた。
バタンッという背後の扉が閉まる音でハッと我に返った。
Aが居ない。逃げたのだ。自分も逃げなくてはと思うのに、足がすくんで動けない。
女は立っているだけだったのが、だんだんと身体を左右に揺らしだした。
ゆら ゆら ゆら
あなたはもう一か八かと後ろの扉に向かって駆け出した。