私は神父。
出張で自身が担当してる小さな町より、大きな街に足を運んだ。
街で何日か過ごしたある雨の日、路地裏で一人の子供を見つける。
その時は遠目に見ているだけだった。

その後も雨が止むことはなく、町に帰る日が近づいて来た。
ふと、あの日見かけた子供が気になり路地裏に足を運ぶ。

子供は座り込み、光を失くした瞳で濡れる地面を見ていた。


声をかけてみるが、こちらを一瞥し、またすぐに視線を地に落としてしまった。

その後も、話しかけては無視をされてを繰り返す。

彼?彼女?の心を開くにはまだ時間がかかりそうだ。
今日は諦めよう。そう思い最後の一声をかけてみる。

【一緒に来る?】

期待はしていなかった。また無視をされるのだろうなと思っていた。

『ん…』


ふらふらと立ち上がり私の服の端を軽く摘む。
驚きはしたが一緒に行きたいと意思表示をしてくれたのならば無下には出来ない。

私は彼?彼女?を連れて宿泊中の宿に帰る。
女主人を何とか説得し、宿の中に入れる事を許可してもらう。

とりあえずお風呂に入れてあげよう。
濡れた身体と服を洗う為、子供を浴室に入れる。



『彼』だった。ついてた。
温かい湯に少々怯えた彼を綺麗にする。
痩せ細った体は、私の手が触れる度ふるふると震え、小動物を相手にしているかのように錯覚させる。

髪も洗い、身体を拭いている最中、彼は

『あ……がと…』

と、たどたどしくお礼を告げる。

【どういたしまして】

それが彼との初めて交わした言葉のやり取りだった。


ベールの過去