(町中を歩いていると、曲がり角の先に山崎さんの背中が見えた)
(誰かと話しているらしいのが見え、聞き込みかとも思ったけれど、困ったように笑っているところからしてそうではないらしい)
(沖田さんに絡まれているのだろうか)
(そんな風に考えながら歩み寄った先で、風に乗って声が届く)「好きです」
(聞き馴染みのない、女性の声)
(照れたような声、言葉)
(告白のセリフ)
(角の向こうで、声を届けた風がその人の髪を揺らしたのが見えた)
(壁と山崎さんとが重なって姿は見えないけれど、丁寧に手入れされているだろう髪だけが見えた)
(一体誰だろう)
(山崎さんはどんな顔をしているだろう)
(何と返すんだろう)
(そんなことを考えながら、ただその場に立っていた)
(だって、動けない。動いたらその人の顔が、山崎さんの返事が聞こえてしまう)
(だから手も届かない、声が聞こえるか否かのギリギリの場所に立ち呆けていた)
(山崎さんは頷かず、首も振らず、ただ襟足のあたりを掻いた)
(少し引いたこの位置からは、それしか見えなかった)
(ただ、丸い頭を後ろから眺めていた)→
告白されている所を目撃する