(いつものように家を出ようとして、ふと、インターホンを覗き込んだだけだった)
(何の理由もない、ただ、そうしてみようかなと思った程度の行動)
(その結果、最悪の朝が始まるなんて思っていなかった)
(カメラのボタンを押すまで、思ってもいなかったのに)


──カチッ。

(明るくなるモニター)
(いつも通りの玄関先)
(黒い塊)

(一瞬、画面の中央だけが映らなくなったのかと思った)
(それぐらい唐突に、理不尽に、なんの気配もなくその影は立っていた)
(玄関先、インターホンのカメラの正面を陣取って、誰が立っていた)

(──ストーカーが、そこにいる)

(それを理解した瞬間に全身の毛が逆立ったような心地がした)
(恐怖、嫌悪。言葉にするならその辺りだろうか)

(思わずモニターから離れるも、そこに映る人影は動かない。揺らぎもしない)
(本当に影か何かのように、頭の先からモニターに映る範囲全てが黒く染まっている)
(深く深くフードを被り込んでいるせいで、顔すら逆光に呑まれて塗りつぶされていたのだ)



(……逃げないと)

●家の前に、ストーカーがいる