(いつだったかあんたはそんなことを言った
血塗れのオレとゲロ塗れのあんた
どっちも悲惨だけど、オレのコレはいつものことなんだからさ
放っておけばいいのに)

(「放っておけばいいのに」と心の中で呟いた時、今の自分の状況と重なった
同情なのか何なのか知らないが、「放っておけない」って気持ちは案外厄介だ
この行為に見返りがないのは分かってる
それでもつい身体が動く
自分の求めているものがここにあるからなのか
いや、そんなわけがない)

(だとしたら何故さっきコイツの手を振り払うことを躊躇した?)

(教会の扉から虫が一匹だけ逃げ出てきた
耐え難い死臭から何とか逃れようとしたみたいだ

弱り切った虫は扉のすぐ傍の血溜まりで足を取られて藻掻いている
足をじたばたと動かし続けて、そのうち動かなくなった
人間も虫も似たような死に方をする

救いを求め、逃げ延びたところで運が悪ければ生き残ることはできない
...仮に、あの虫に救いの手を差し伸べたら?
少しは延命できたんだろうか


いや、馬鹿な話だ
虫相手に同情するなんて、脳に血が回らなくなっていよいよ駄目になってきたらしいな)


(生き物は、自分が求める「何か」を追って行動する
さっきの虫は外の空気を求めていたんだろう
なら、今のオレがここに留まっているのは、
そしてオレがここへやってきた理由は、求めている「何か」の為か)


(理解したくないが腑に落ちた
あんたの救いを拒めなかったのは
痛みに追い縋って生きてきた今までが、苦しかったのか)

(慣れて何も感じなくなったわけじゃなかった
今まで生きてきた一本道がオレをそうさせただけ
そりゃそうか
血が出たら痛いに決まってる)

(だからって今更あんたの手を取るのが許されるような人間じゃない
オレはその手を振り払うことはしないし、助けを求めることもない)

(これからも手を汚しながら生きていくんだろうな
汚れた手を好き好んで握ろうとするヤツは居ない
同じような、手が汚れ切ったヤツらと共に生きていく)


(あんたが今まで生きてこられた理由は運が良かっただけじゃない
周りの連中に手を差し伸べ続けてきたからだ
一つ一つの力は弱くても集まれば大きな力になる
それで手に入れた力を、自分たちが生きていく為だけに使う

力を以て弱者を捻じ伏せるオレたちとは違う)


(生まれや育ちどころじゃない コイツとオレとじゃ住む世界も違うんだ
なら、さっさとここから離れたらいいだけの話だってのに
どうしても動けないのは、まだあんたの手に未練があるからなんだろう)



...
傷7