名前:『wise Shark』

デモンズを31匹倒した

『セイラは、火水木金土のどれがいいかにゃ?』


部屋で本を読んでいると、ここあが唐突に尋ねてきた。

お出かけの曜日のことかしら。
なら、一応お休みである土曜日がいいような……。というか、いつも出かけるのは土曜か日曜よね?


『土曜日がいいわね』

『じゃ黄色だね!』


机に向かっていたここあが振り向き、何かを差し出してくる。

それは、長方形の黄色の紙で……。


『短冊!』


そうか、そういえば今日は七夕ね。
でも、去年までこんなことしなかったような……。


『いろはすがやりたいみたいでね。でも明日カオリンの誕生日で、そっちの準備もしてたら七夕の用意ができなかったみたいでさっき慌ててた』


いろははいつも元気なのだけれど、落ち着きがないところがあるわね。


『何書く何書く~?』

『そうね……。世界平和……』


私たちは、デモンズを倒すMS少女なのだから。

ペンのキャップを開けて書こうとして、ふとここあを見ると、ここあは頬を膨らませていた。


『そーんな誰もが思ってそうな願いごとつまんないよー!』

『そ、そんなこと言われても……。じゃあここあは何て書いたの?』

『……いろはすはね、“カオリンに会えますように”って書くんだって。にゃはは、カオリンは死んでないけど、なんかいいなって思っちゃってさ。“夢でお母さんに会えますように”って書いてみよっかなって』


ここあが、赤色の短冊をひらひらと揺らす。そこには確かに、ここあのお母さんへの願いごとが書かれていた。


『赤い短冊はねー、親や祖先への感謝を表すんだって!』

『黄色は……』

『人を大切に思う気持ちなんだってさ』


人を……。

私の頭に浮かぶのは……、お姉ちゃんだった。


――デモンズから、身を挺して私を守ってくれた、お姉ちゃん。


あの時のことを思い出すと、後悔が全身を満たし、何もできなくなりそうになる。


――私は、たとえお姉ちゃんに会えたとしても、会う資格なんてあるのかしら。


『ねぇここあ、黄色は何だって言ってた?』

『え? 人を大切に思う気持ち……』

『うん。私は、それでいいわ』


“人を大切に思う気持ちをいつまでも忘れずにいられますように”


誰かの死を目の当たりにするたび、少しだけ思うの。

私、冷たい人間になっちゃったんじゃないかしらって。

だって、お姉ちゃんの時のように悲しい気持ちにならないんだもの。


『これがMS少女なのかしらね』


私は、小さな声でつぶやき、短冊に願いを込めた。
SS:黄色の短冊