わたしのお父さんは、鬼らしい。
この前、うちに来たお父さんの仕事関係の人が言っていた。鬼のタマキ……って。
わたしのお父さん、鬼なんだ。人間じゃないんだ。
……ちょっとかっこいい。
わたし、人間と鬼の間に生まれた子なんだ。友達に自慢できるかな。
でも、鬼だって言ったら怖がられちゃうかも。誰かに言うのはやめておこう。
◆
今日は節分って日らしい。
節分には、豆をまいて、鬼を追い払うんだって。鬼の代わりに、福を呼び込むんだって。
……福は、鬼より大切なの? お父さんより、大切なの?
『はなちゃん、元気よく鬼は外ーって言って、鬼を追い出そうね』
お母さんが豆を渡してくる。
お母さん、お父さんのこと嫌いなの? お父さんが帰ってこないのは、お母さんが追っ払ってるからなの?
『鬼はー外ー! 福はー内ー!』
お母さんが豆をまいている。
お母さんの真似をしないといけないと思って、わたしも豆をまく。
『鬼は……うち……』
『はなちゃん、鬼を内に入れちゃだめだよ。福を内に入れなきゃ。鬼はー外ー』
『鬼は、うち』
ぱらぱら。豆を投げる。
お母さんが困っているのはわかっていたけれど、どうしても『鬼は外』とは言いたくなかった。
『鬼はーうちー』
うちにいてほしいよ、お父さん。
外じゃ、いやだよ。さびしいよ。
わたしは、福より鬼がいいよ。
だから、はやく外から帰ってきて。
わたしが起きる前に、外に行かないで。
わたしのだいすきなお父さん…………。
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