『まだいんの?』
誰もいなくなった放課後の教室で、一人学級日誌を書くウチ。
ふと声が聞こえてそちらを見れば、入り口に矢崎くんが立っていた。
『うん、もう少し』
矢崎くんがウチに近づく。ウチが何をしているのか把握すると、短いため息をついた。
『花織は真面目だな。もう俺たちそういうことなんかする時期じゃないってのに』
『だって、誰かがやらなきゃいけないことだし、ウチは委員長だし……』
『そもそも日誌書くのは委員長じゃなくて日直の仕事だろ』
『しょうがないよ、みんな勉強で忙しいもん』
『それは花織だってそうだろ……』
『だーいじょうぶ。ウチはみんなと違って優秀なんです』
『全く、イヤミな女~』
学級日誌を書き終わるまで、矢崎くんはウチのそばにいた。
同じ学級委員である矢崎くん。いつもウチを気にかけてくれる……気がする。
でも、別に、そういう……恋愛とか、そんな意味じゃないと、思う。
…………うん。違うと、思う。うん…………。
『終わった?』
『うん。矢崎くんはどうしたの?』
『俺は明日受験なんだ』
『あ、そう言ってたよね。……って、じゃあ早く帰ったら!?』
『うん。まぁ、そうなんだけど……。……応援してくれる?』
『え? 何言ってるの? もちろんだよ! 頑張れっ! 矢崎くんなら絶対大丈夫だよ!』
不安なのかな、矢崎くん。その不安を吹き飛ばせたらと、自分にできる精一杯の笑顔で励ます。
矢崎くんも、笑顔になってくれた。
『ありがと! ……別々の学校になるだろうけどさ……、これからも仲良くしような……?』
『え? …………う、うん』
…………その言葉に、期待しても、いいのかな……?
…………もうすぐバレンタインだ。
……受験で忙しいけど…………、それでも…………。
矢崎くんには――…………。
◆
別の学校、別の学年。
もう、きっと会うこともない。
スマホに残された、“矢崎嘉人”という名前。
消すという勇気すら持てない……ウチ。
でも、ウチはウチで、頑張るね。
いろはと一緒に……。
……流されていこう。もう、二度と傷つかないように。
いろはと結衣からもらったチョコレートは、甘いはずなのに、すごく苦く感じた。
拒食症がまだ完治していないのだろうか。
SS:同級生だったキミ