名前:『wise Shark』

デモンズを31匹倒した

『丹ー、蒼ー』


おかあさんは、わたしたちを呼ぶ時、近くにいる方から呼ぶ。
丹と二人でいっしょにいる時は、おねえさんである丹から呼ばれることが多い。


『蒼ー、丹ー』


おとうさんがわたしたちを呼ぶ時は、決まってわたしから呼ぶ。

おとうさんは、わたしのことがだいすきだ。わたしもおとうさんのことだいすき。
でも、丹のこともだいすき。おかあさんのこともだいすき。

おとうさんは、わたしにだけやさしい。……ううん。別に丹にやさしくないわけじゃない。丹より、わたしに対しての方がやさしい。

おかあさんからは感じないけれど、おとうさんからは、わたしと丹の差を感じる。







節分が終わると、おかあさんといっしょにおひなさまを飾った。


『おひなさまってきれい』

『そうだね』

『おだいりさまもすてき。いつもいっしょなんだね』


丹は、おひなさまが好きらしい。家にいる時はよくながめていた。


『ねえねえ、おひなさまごっこしよ! わたしおひなさま!』

『じゃあわたしは……』

『あおもおひなさま!』


おひなさまは二人いていいのか、わたしにはよくわからなかった。

でも丹がたのしいなら、わたしはそれでいい。


『このこがおだいりさまね。わたしとあおのだいじなひと』

『おだいりさまはひとりなの?』

『だって、さんにんかんじょとごにんばやしもひつようだもん。そんなにおにんぎょうない……』

『そっか。じゃあ、わたしとあかのだんなさまなんだね』

『うん!』


丹がいちばん大事にしている男の子のお人形が、おだいりさま役だった。







3月3日、ひなまつり。

丹といっしょに、おひなさまの前で歌を歌った。

ほぼ毎日していたおひなさまごっこ。
おひなさまの着物が着たいと言った丹。ほんものの着物は用意できないけど、ダンボールや折り紙でドレスを作った。


『ただいま。おっ、かわいいおひなさまが二人いるな』


おとうさんが帰ってきた。おとうさんは、わたしの頭をなでる。
そして、丹の方を見て『かわいい』と言って、部屋を出ていった。

丹は、すこしさびしそうな顔だった。おだいりさま役のお人形を、ぎゅっと抱きしめている。

わたしは………………、ドレスを脱いだ。


『ねぇ、やっぱりおひなさまがふたりはヘンだよ。わた……オレがおだいりさまになるよ』

『え?』

『あかはオレのかわいいおひなさまだ』



おひなさまは、二人もいらない。
だからオレは、男に、おだいりさまになろう。丹を本当に笑顔にできるように。
SS:おひなさまは二人もいらない