名前:『wise Shark』

デモンズを31匹倒した

「では、はなびと花織はここに座って」



「自己紹介は、準備しながら行うことにしよう。元部先生も手伝って」


「わかっているとも。これだね」


「違う! なんで元部先生はいつもいつも、ゾンビのぼくより物覚えが悪いんだ!」


「…………は?」


「えと…………、今、ゾンビ、って……」


「……ぼくは、生きているといえば生きているが、死んでいるといえば死んでいる。……この体は死体に過ぎないからな。だからゾンビだ」


「ぼく……東山陽彩(ひがしやまあきさ)は数年前、デモンズによって命を落としている。……ぼくは、そこの天才お嬢様の親戚でな。彼女によってよみがえったわけだ」


「……言っておきますけれど、誰でもよみがえらせられるわけではないんですのよ」


「陽彩の場合、脳への損傷がほとんどなかった。体だって、背中に負った大きな傷からの失血死で……。……デモンズの攻撃を受けたにしては、比較的綺麗な死に方をしたんですの。……いろはや、はなびのご両親では、できませんわ」


「っ…………」


「………………」


「あと……、陽彩を殺したデモンズは、不思議な植物のようなものを持っていた。……それは、人に寄生し、体を乗っ取る性質があるみたい。……陽彩が今ここにこうしているのは、そのおかげでもありますわ」


「それは、植物に見えるが、実際にはカビのようなものでな。ぼくらは黴体生物(ばいたいせいぶつ)と呼んでいる。この体は死体だが、それでも動くのは黴体生物のおかげだ」


「死体といっても、もうほぼ人工皮膚で……、内臓は空っぽだ。ぼく自身にはエネルギーは必要ない。黴体生物のエサとなる人工皮膚を絶やさなければ」


「脳だけで生きることは不可能。脳は大事な器官だが、体があってこそ成立する器官だ。……しかし、ぼくは黴体生物によって、体がなくても脳を生かすことを実現している。……普通ではありえないことだが、な」


「デモンズという摩訶不思議な存在が現れた以上、今まで考えられていた常識を更新せざるを得ないな……」


「まあ。そんなわけで、ぼくは普通の人間とは違う存在になってしまった。体は黴体生物に浸食されすぐ腐っていくから、人工皮膚が常備してある医療棟から離れることはできない。よって、ここでナースをしているというわけだ」


「この年中ハロウィンやってるような格好は、腐っても目立たないようにするためだよ……」


「……さて。脳波を測っていくか」


(陽彩によりてきぱきと準備が進められ、はなびと花織の頭にはいくつもの機具が取り付けられていた)



「ぼくの話を聞いて混乱したかもしれないな」


「とはいえ、隠すのも変ですし……」


「そうだな。ここにいる以上、ぼくの存在は知っておいてもらうべきだろうし」


「……まあ、なんだ。生かされた命。大切にしたいと思っている」


「無論、きみたち、本当に生きている人間のことはぼくの命以上に、だ。こんなナリだが、ぼくはきみらよりお姉さんなんだ。血縁関係はなくとも、本物のお姉さんと思って、何か不安なこと、心配なことがあれば頼ってくれ。話を聞いて解決方法を探すくらいはできる」


「おね……」


「気軽に“陽彩お姉さん”と呼んでくれていいぞ」


「誰もそんな風に呼んでいないじゃない。“陽彩”か“陽彩ちゃん”の2パターンばかりですわ」


「あ、ぼくは“陽彩くん”と呼んでいますよ」


「わ、私も“陽彩さん”とお呼びしていますが……」


「まぁ……、仕方ありませんわね。ちびっこの状態で死んでしまったのですし」


「ち、ちびっこでも! 頭脳は……少なくとも死んだ当時でも元部先生には全く負けないつもりだぞ! 論文だっていくつも書いていたくらいだからな!」


「論より証拠という言葉があるでしょう! ぼくの研究は論文で収まるものではない」


「論文に収まらない研究なんて単なるバカの空想ですわよ……」


「……いろはとも、話したことあるの?」


「ん? ああ、何度か会ったし、話したよ」


「底抜けに明るい子だな……。まぁ、そこがうらやましいというかなんというか、少々見習うべきなのかもしれないが……」


「いろはには、何て呼ばれてたの?」


「『陽彩ちゃーん! 今日もちっちゃくってかーわいいー♡』」


「『わぁ、いきなり抱きつくなぁー! 体が歪んだらどうするんだ!』」


「……みたいなやりとりしてましたわねぇ」


「あ、あはは……。いろはらしい……」


「じゃあ“陽彩ちゃん”って呼ぼう」


「んなぁっ、きみはいろはと同い年なのだろう!? ならぼくより年下だ! 陽彩お姉さんと!」


「……確かに陽彩はワタクシより一つ下ですけど、死んだ年で年齢がストップしたと考えるなら、はなびの方が年上ね」


「そ、それはおかしい、生まれ年で考えるべきだ! ぼくははなびや花織より年上だ!」


「はいはい、陽彩ちゃんお姉ちゃん」


「うぅぅぅぅ~、エリザが余計なことを言うせいでまた“陽彩お姉さん”という呼ばれ方が遠のいてしまったじゃないか……!!」


「……ワタクシがいなくても、多分遠のいたままだと思いますわ」



14話9