
「あれ…………」
(とっぷり日も暮れた頃、ようやく花織が安置室から出てきた)
(丹は、花織の気が済むまで、解剖までの時間を遅らせてくれていた)

「な、なんでみんないるの……?」

「そりゃ……、勝手に帰るわけにもいかないだろ。……かといって、丹教官にも花織にも許可もらってないのに、入るわけにもいかないし」

「まぁ……、もっと遅くなっても出てこないようなら、いろはと寝るのかなって思って、いい加減部屋戻るつもりだったけどね」

「ご、ごめんね! まさか待ってるなんて思わなかったから……!」

「いいよ、別に。……気は済んだの?」

「済んだって言うか……、済ませたって言うか……」

「…………色んな、気持ちが、溢れてきた。昔のことも、思い出したりしちゃって」

「……ウチさ、引きこもりだったんだ」

「ん、そうなんだ」

「うん……。中学受験に失敗して……」

「…………そのまま、学校に入学せずに、一年過ごした」

「へぇ…………」

「…………はなびは、いろはと同い年だって言ってたよね」

「…………ウチ、実は、一歳上なんだ」

「ああ……、そうなのか……」

「…………引いた?」

「なんで?」

「サバ読んでるし……」

「一歳くらい大した差じゃないじゃん」

「……はなびに限らず、周囲の人は、みんなそう言う……。けど……、ウチにとっては、ものすごいショックで……、受け入れられないことだったの……」

「ケガとか病気とか、そういう事情ならわかる。でも、受験に失敗したってだけだよ? そんなんでメンタルやられて、一年も引きこもってたとか……」

「メンタルやられたんなら病気だろ。……病気なら仕方ない」

「びょ、病気は病気でも、こんなん……とってもちっぽけで……」

「でも、花織にとっては一大事だったんだろ?」

「…………うん…………」

「その時、ウチをもう一度外に連れ出してくれたのが、いろはだったんだ……」
(花織は、ゆっくりと語り始めた)
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