名前:『wise Shark』

デモンズを31匹倒した

「エリザお嬢様の執事をしております、ジェームズ・ジェンキンスと申します」



「言いにくいでしょう? “じい”、“じいや”と呼べばいいですわ」


「いや、別に言いにくいことはないと思うんだが……」


「構いませんよ、呼びやすいように呼んでいただければ」


「えっと……。じゃあ本名の方も知ってるんですよね。環はなび、です」


「ええ、存じ上げております。環はなび様、朝永花織様」


「最初は、ワタクシチャンサマがイカしたコードネームをつけてあげるつもりだったのですわ!」


「特にあなた……。ワタクシは、あなたのことを一年前から知っていますわ」


「え?」


「あなたが最初にMS検査を受けた時、ワタクシもその場にいたんですのよ」


「“適性なし”って結果が出たのに、いつまでも担当に噛みついて……」


「その様子を見たワタクシの脳裏に、ある生き物が思い浮かびました!」


「カミツキガメ!」


「…………」


「でも今回、めでたく適性が出ましたわね! おめでとうございます!」


「そこでワタクシは思いました! あなたのコードネームは」


「“カミツキガメ”……?」


「カミツキガメは日本の生物ではありませんわ。日本にも食らいついたら離さないという生き物はいますでしょう?」


「“鼈(スッポン)”ですわ!」


「……………………」


「ご存知とは思いますが、スッポンは滋養強壮の効果もあり、そういう栄養ドリンクとか必要そうなあなたにぴったりだと」


「でも、スッポンって英語だとsoft-shelled turtle(ソフトシェルタートル)。スッポンだけだとなんですし、他にも意味を持たせたかったのですが、そうするとコードネームが長くなってしまうんですのよね~」


「……そこで、僭越ながら、同じ噛みつく生物として鮫(サメ)ならどうかと、提案したのです」


「また、はなび様は努力家で勤勉ともお聞きしました。なら、“賢い”という“wise”もつけて、『wise Shark』ならどうかと」


「ありがとう……。ありがとう、じーさん…………」


「そんなに気に入ったんですの? よかったですわね、じい♪」


「…………ウチは、どういう感じだったんですか?」


「あなたって見るからに普通よね! そんなに普通に普通ができるなんて普通じゃないでしょう」


「な、なんですかそれぇ……」


「だからそんなに期待してなかったのです。でも、MS少女が足りず、孫の手も借りたいのは事実ですわ」


「というわけで、“granddaughter hand(グランドドーターハンド)”と」


「そ、それを言うなら猫の手ですからっ! っていうか、合っててもひどいっ!!」


「手のひらに収まるくらいの小さな希望……。生きていくには、そんな希望が大切です。花織様には、そうした小さくも失いたくない“一握りの希望”という意味で、『handful hope』をご提案いたしました」


「そうね! 絶望が満ち溢れた世界、大きな希望なんてない。人々は小さな希望を握りしめて、この世を生きていくのよ!」


「そ、そうなんですか……。そう思うと、なんだかかっこいいですね……。最後の砦というか……」


「…………」


「ちょ、ちょろい……」



10話8