「エリザお嬢様の執事をしております、ジェームズ・ジェンキンスと申します」

「言いにくいでしょう? “じい”、“じいや”と呼べばいいですわ」

「いや、別に言いにくいことはないと思うんだが……」

「構いませんよ、呼びやすいように呼んでいただければ」

「えっと……。じゃあ本名の方も知ってるんですよね。環はなび、です」

「ええ、存じ上げております。環はなび様、朝永花織様」

「最初は、ワタクシチャンサマがイカしたコードネームをつけてあげるつもりだったのですわ!」

「特にあなた……。ワタクシは、あなたのことを一年前から知っていますわ」

「え?」

「あなたが最初にMS検査を受けた時、ワタクシもその場にいたんですのよ」

「“適性なし”って結果が出たのに、いつまでも担当に噛みついて……」

「その様子を見たワタクシの脳裏に、ある生き物が思い浮かびました!」

「カミツキガメ!」

「…………」

「でも今回、めでたく適性が出ましたわね! おめでとうございます!」

「そこでワタクシは思いました! あなたのコードネームは」

「“カミツキガメ”……?」

「カミツキガメは日本の生物ではありませんわ。日本にも食らいついたら離さないという生き物はいますでしょう?」

「“鼈(スッポン)”ですわ!」

「……………………」

「ご存知とは思いますが、スッポンは滋養強壮の効果もあり、そういう栄養ドリンクとか必要そうなあなたにぴったりだと」

「でも、スッポンって英語だとsoft-shelled turtle(ソフトシェルタートル)。スッポンだけだとなんですし、他にも意味を持たせたかったのですが、そうするとコードネームが長くなってしまうんですのよね~」

「……そこで、僭越ながら、同じ噛みつく生物として鮫(サメ)ならどうかと、提案したのです」

「また、はなび様は努力家で勤勉ともお聞きしました。なら、“賢い”という“wise”もつけて、『wise Shark』ならどうかと」

「ありがとう……。ありがとう、じーさん…………」

「そんなに気に入ったんですの? よかったですわね、じい♪」

「…………ウチは、どういう感じだったんですか?」

「あなたって見るからに普通よね! そんなに普通に普通ができるなんて普通じゃないでしょう」

「な、なんですかそれぇ……」

「だからそんなに期待してなかったのです。でも、MS少女が足りず、孫の手も借りたいのは事実ですわ」

「というわけで、“granddaughter hand(グランドドーターハンド)”と」

「そ、それを言うなら猫の手ですからっ! っていうか、合っててもひどいっ!!」

「手のひらに収まるくらいの小さな希望……。生きていくには、そんな希望が大切です。花織様には、そうした小さくも失いたくない“一握りの希望”という意味で、『handful hope』をご提案いたしました」

「そうね! 絶望が満ち溢れた世界、大きな希望なんてない。人々は小さな希望を握りしめて、この世を生きていくのよ!」

「そ、そうなんですか……。そう思うと、なんだかかっこいいですね……。最後の砦というか……」

「…………」

「ちょ、ちょろい……」
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