「あっ……、慎次、せんせ」
はなびちゃんは、賭博行為を行っている不良娘。
そんなはなびちゃんのクラスの担任である慎次先生は、48歳のおっさんだ。
担任とはいえ、慎次先生は、不良の自分なんていないかのように扱う。
不良ゆえの腫れもの扱いは慣れっこだが、慎次先生は、少し違っていた。
まるで『自分に迷惑をかけなければ何をしてもいい』と、突き放されているようだった。
冷たい目。鬼のようだ。実際に、慎次先生は鬼教師と呼ばれていた。
それが少し――、はなびちゃんは、癇に障った。
年が明けると、はなびちゃんはもらったお年玉を即効ギャンブルに溶かした。
所持金0。
でも、家にいるのも憂鬱で、あてもなく夜の街をぶらぶら歩いていた。
ツキというものは、ない時にはとことんないもので、ギャンブルでイカサマを使って負かした相手にばったり遭遇してしまう。
当時のことで怒り狂う相手に、はなびちゃんは殴られる――と思ったその時だった。
慎次先生が、相手の腕をつかんでいた。
『私の教え子に何か用か』
鬼教師らしい、絶対零度のまなざし。
相手は途端に戦意を喪失し、逃げるようにはなびちゃんの前から去っていった。
はなびちゃんは、何を言えばいいのかわからなかった。ただ、ふと見上げた慎次先生のメガネにひびが入っていることに気づく。
『ああ…………、さっき転んでしまってな。……誕生日なのについていない』
『せんせ、今日誕生日なの?』
『ああ』
『そっか……。おめでと……』
それより、自分はお礼を言うべきではなかろうか。
はなびちゃんは悩むが、それよりも先に慎次先生が口を開いた。
『ありがとう。お前くらいだ、そんなことを言ってくれるのは』
ほんの少しだけ、慎次先生の口元がほころんだ。
はなびちゃんの胸の中で、甘いものが弾けるような感覚が湧き起こった。
『せんせは、結婚してないの?』
『ああ……』
『恋人は?』
『仕事だ』
慎次先生が、メガネを外す。はなびちゃんは、まるで慎次先生のはだかを見てしまったような気分に陥った。胸がどきどきして、落ち着かない。
『家はどこだ? 送っていこう』
『そんな、いいよ。それよりせんせ、メガネないと見えないんじゃ』
『別にこれくらい平気だ』
『むしろ私がせんせ送ってく』
結局、はなびちゃんは、慎次先生の家まで行き、慎次先生が代わりのメガネをかけてから、慎次先生の車で送ってもらった。
慎次先生の車は、たばこのにおいがした。
『宿題をちゃんとやるんだぞ』
『ん……』
『あと……、危ないことはしないでくれないか。……いつでも守れるとは限らない』
『別に……、せんせは、せんせじゃん』
『先生だから、かわいい教え子を守りたいんだ』
まっすぐそう言われた時、はなびちゃんは、今まで慎次先生を誤解していたと感じた。そして、慎次先生のことをもっと知りたいと思ったのだった。
慎次先生に誕生日プレゼントを贈りたいが、色々考えているうちに冬休みが終わってしまった。今さら誕生日プレゼントといっても、遅すぎるだろう。
周囲がバレンタインの話題をし始め、はなびちゃんは、慎次先生にチョコレートを渡そうと思った。
学校では目立つ。幸いにもはなびちゃんは、慎次先生の家を知っていた。家にまで直接チョコレートを届けようと考えた。
学校から帰って制服を脱いで、着る服に悩む。
クローゼットをひっくり返す勢いでコーディネートを考え、丁寧にラッピングしたそれをかばんに入れる。
しかし、いざ慎次先生の家まで来ると、直接手渡す勇気がしぼんでいく。
いっそポストに入れておいとましようかと思った時――、慎次先生が、後ろにいたのだった。
「どうしたんだ?」
「きょ、今日……、バレンタイン、だから」
持っていた小箱を手渡す。手が震えていた。
慎次先生は、軽く目を見開いて……、小箱を持っていたはなびちゃんの手ごと受け取る。はなびちゃんの心臓が、どきりと音を立てた。
「冷たい……。とにかく、家に」
慎次先生の家に入れてもらう。
はなびちゃんの体が小さく震えているのを見て、慎次先生は着ていたスーツの上着をはなびちゃんにかけた。
たばこのにおいが、鼻をくすぐる。どきどきするのに、不思議と安心した。
「そんな薄着でここまで来たのか?」
慎次先生は、コーヒーを淹れてくれた。
「せ、せんせ……、恋人いないんだろ。……かわいい女の子がチョコくれたら、鼻の下伸ばすかと思って」
「それよりお前の鼻がたれているじゃないか」
「た、たれてねーし、デリカシーってもんがないのかアンタは!」
それでもはなびちゃんは、手を口元に当てて、鼻水が出ていないかそっと確かめた。
慎次先生は、ふっと笑って、はなびちゃんの頬をなでた。
「冗談だ。……つい、信じられなくて、憎まれ口を叩いてしまう」
「…………せんせ」
「開けてみて、いいか?」
はなびちゃんは、こくんと頷いた。
慎次先生が小箱を開ける。
ギャンブルをせず、ちゃんともらったお小遣いを使った手作りチョコレート。溶かして成型するだけだから、味は悪くないはず。
「ハート……」
「あっ、あっ……、そ、それは、型が、そういうのしかなくてっ……」
自分で選んだのだが、いざ指摘されると言い訳してしまう。
小さなハート型のチョコレート。慎次先生は、その一つをつまむと、口へ運んだ。
「……どう?」
「……おいしい」
それを聞くと、はなびちゃんはほっと胸をなでおろした。
「とても美味しいよ。お前も食べたらどうだ?」
慎次先生は、はなびちゃんの口にチョコレートを押し込んだ。
はなびちゃんが眉間にしわを寄せる。
「チョコはきら……」
慎次先生の言葉が途切れる。
はなびちゃんは、慎次先生の口をふさいでいた。自分の口で。
先ほど押し込まれたチョコレートを、慎次先生に返す。
「せんせのために作ってきたから……、全部慎次せんせが食べて……」
「…………はなび…………」
「っ…………、せんせ……、好き……」
「わ、私も……、はなびのことが…………」

とゆー話を妄想しておきました。
でもやっぱり父と娘の関係がいいので、教師と生徒はあんまり。
勢いのまま書いた話ではなびちゃんのキャラがアレでイベントにするのもなんなので、ここにこっそり上げておきます。
鬼教師慎次てんてーとそんなおっさんが気になって仕方ない不良生徒はなびちゃんで純愛ストーリーを書いておけばいいものを(書いても尺が足りないせいでクソイベスト確定になりそうだからやっぱり書かなくていいや)