赤子のようにぐるぐる巻きに布団を巻かれたイブは産まれたての赤子のような姿で少しだけ可愛い。
窓から風が吹き込んできたような声でほっといてくれて良かったのに、と不服そうに目を細めた。
頬だけではなく体全体が火照っているのか、元々雪の様に真っ白い肌はさらに赤色を孕んでいる。
誰からどう見たって病人なのは一目瞭然なのに、いつも通り出かけると上着をフラフラの足で取りに行った彼を食い止めてからのことである。
別の部屋からもイブが放つ苦しそうな咳が聞こえ可哀想で仕方がない。当の本人に監禁されてるとはいえ私自体も病人を見捨てるほど鬼畜では無いのだ。
わざわざイブが私用と残してくれたりんごを与えるために包丁を握り出来るだけ食べやすい形に切っていくが、徐々に林檎は歪な形へと変形していく。
私が過去に手を滑らせ指を切った時以来握らせて貰えなかった事もありそのせいだと、ただの練習不足をイブのせいにしてから私は上手く切れなかった証拠を隠すように1番歪な形をした林檎を1つ咀嚼した。

フォークでイブの口元に持っていくがなかなか口を開く様子もない。

「それ、君の林檎でしょ。俺がわざわざ君の為に取ってきたのに、なんで俺に食べさせようとするの。」

さすがずっと家事をしているからか家の中を把握しているだけあって簡単に騙されるはずもない。
試しに余ったから、イブの分など言ってみるも頑なに口を開く様子は無く、いつも通り外に出て食料を買いに行けないせいで私が十分に食べれないことを指摘する。
風邪なら2日ぐらい寝込めば治るから、そうって再度何も食べずに寝ようとするイブ
無理やり口元を掴み林檎を押し付けるが唇は強く紡がれたままだ。

「材料を買いに行くぐらいなら、私が」

そう伝えようとした瞬間に鬼気迫った目をしながら私の両腕を強く掴むイブ。
そこまで頑なに外に出してくない理由がわからない、
私だってもう子供では無い、イブがいつも家に帰ってくる時は顔が寒さで腫れ上がりどこかぼーっとした目をしているのを私は知っている。だからといってその過酷さを無視して私が全てイブに託していい理由にはならない。理由が何であれ私が逃げるつもりは無い、
必ずここに帰ってくる意思表明をした私を、
そういう簡単な話じゃないんだよとイブは冷たい目をして突き放した。

「外には何があるの?」

「……何を知りたいの?」

そんなこと、イブが隠している事のすべてだ。
食べ物を買いに行く、服を買いに行くだけと言う割には毎回帰ってくる時間が長くてしょうがない。
風呂場にあるシャンプーだって必ず封が空いていて毎回別の種類を持ってくる、まるで……どこかで盗んできたような、そんな感じがしてしょうがない。
その上私にはここに来る前までの記憶が無いのだ、
私たちは教会で暮らしてきて周りにシスターや教会のみんなとも暮らしていたはず、そこにはイブも必ず居たはずなのに。なのに、目が覚めたらイブだけで誰一人居ないなんて。
怖くて何一つ聞けない私を見透かしたようにイブは

「…神様なんて居ないから、自分でなんとかしなきゃ行けないんだよ。」

そう自分に言い聞かせるようにぽつりと呟いた。

きっと施設に暮らしていた頃ならシスター達に怒られたにも違いない。
けれど、イブは元からそういったスタンスだった為何もお咎めが無いだろう。
体調が悪い彼をこれ以上問い詰めることも出来ず、そっと横目で見守る。

部屋の中でもわかる、徐々に寒さが強まってきた。
この部屋にいる間、冬は開けるのだろうか。部屋を出れる時が来るのだろうか、そんな不安に包まれながら
何も知らなくていいからねと再度私に言い聞かせるイブの気持ちとは裏腹に私は、何もかも全てを知らなくちゃ行けないような そんな気がした。
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