意識を失ったリューさんを背負って、この果てしない道を続いていく…深層37階、白宮殿(ホワイトパレス)と呼ばれるこの道を。
あれから、どの位の時間がたったのだろうか?
リューさん……いや、リューと二人でこの37階へと落ちてきた時から…どれだけ時間が経っんだろう?
ベル達は無事なのか?……きっと彼等は何が何でも助けに来てくれるだろうけど、ここは深層だ、レベルが高いユーリやシャルルが居ても、一筋縄じゃならないだろう。だけどユーリとシャルルは、ザギとかいう闇派閥らしき男と交戦していた…もしかしたら、救出に来れないかもしれない。
でも、諦める訳にはいかないんだ、隣にはリューがいる、ここで諦めたら彼女も死んでしまう
気張れ、踏ん張れ、お前は尤も英雄に近い男、ベル・クラネルの右腕だ……ここで諦めたらあいつの背中は追えないぞ。
ありったけのルーンをステイタスの強化に注ぎ込む、そしてこの間作成したタリスマンの一つ、恵の雫のタリスマンをリューさんに装備させて、少しでも彼女が生き残る確率を上げるんだ
ここで死ぬ訳にはいかない、ここで死んだらリューは少しの間だけ一人になってしまう。復活もインターバルが必要だ。
攻撃だけじゃなくて、もっと支援魔法や回復魔法が使えれば…きっとこんな状況でも大丈夫だったんだろう。もっとやれる事を多くしたい…そう、強く願った
そう願った直後、信じられない光景を見た

ヤツは、37層の大広間にて、そこに鎮座していた。
ベルの片腕を飛ばしたヤツが……
ヤツは俺達の姿を見た時、唸り声をあげて戦闘態勢を取る。
「なんだよ、わざわざ追いかけて来たのか?変な奴に好かれたもんだなぁ、まったく」
戦いに巻き込まないようにリューを広間の隅に寝かせる。
……もしもアイツが俺達を追いかけて来たのなら、もしも知性を持っているのなら……
「お前を倒して俺達は帰るんだ、覚悟しろ」
表情は分からないけど、ヤツはニヤリと笑った気がした。
「っ!!!」
上層で見た時と姿は違うからか、奴は体から骨を飛ばす攻撃を仕掛けてくる。
「ラシルドォ!!ザクルゼム!ザクルゼム!!」
詠唱は間に合わないと判断して、咄嗟に出したラシルドをザグルゼムで強化する。
だけど、それだけじゃ足りなかった、奴の攻撃はラシルドを貫通した。だが回避する時間は稼げた
ここに落ちてから少しは|精神力《マインド》も回復したとはいえ、後何回魔法を撃てるか分からない、オマケに奴は魔法を反射する…だから
「【第六の術】、ラウザルク!!」
身体能力を底上げする魔法を使い、少しでも奴の速さに着いて行く!!
「オォォォォ!!!!」
雄叫びを上げながら、奴を切り裂いていく。
その都度繰り出されるのが、一度だけで人の命を奪う圧倒的な攻撃力を誇る「爪」だ。
いくらルーンで底上げしたとはいえ、ベルとは違ってレベル4じゃない俺で勝てるのか?いや…勝ってみせる!!!
奴の魔法を反射させる装甲さえなんとかすれば、エクセレス・ザケルガで突破出来るはずだ!
「グルァァァァ!!!」
奴は迎撃を優先してきているけど、上層の時よりも速さが落ちている…だけど、装甲の硬さはそれ以上だ!
やっぱり、魔法の力が必要だ…それかベルやシャルルみたいに強力な一撃で戦局を変えられる力が!
ソルド・ザケルガを出すべきだったか?でも今更だ!!
少しでもヤツの装甲を削って行く、魔法が通るように…来るべき時に備えて。
その度に幾度となく迫る奴の爪、考えていたら避けきれない!
「……!!!」
一撃でも喰らったら即お陀仏…そんな爪の攻撃だが、不思議と身体が反応する。
何も考えていないのに身体が反応する。奴の攻撃全てに反応して…身体が最適な行動をしてくれる。
これは、ラウザルクの影響か?なら今ならやれる!!
そう、考えてしまった。
「が……っ!!?」
奴の爪の一撃が、身体に当たる。
ラウザルクと万が一の為に装備していた竜印の大盾のタリスマンが、ダメージを軽減してくれたのか俺の身体が真っ二つになる事は無かった
でも、俺の動きを止めるのに十分な威力を持っていた。
ヤツはその爪を大振りで振るってくる。その瞬間にラウザルクも切れてしまった。
ーーあ、死ーー
「うぁぁぁぁ!!!!」
俺の身体を、一筋の風が攫って行った
「○○!○○!!無事ですか!?返事を!!」
「リュー……?」
俺を助けてくれたのは、リューだったのか?
意識を取り戻したのか…良かった。でも、この状況じゃあ…!
「グルゥ……」
…?ヤツが攻撃して来ない?
「……○○、私も戦います…今度こそ私は大切な人を護りたい、私は…このモンスターを、倒す!!!」
リューがヤツに向けてそう吠える。
因縁があるモンスターと、過去の恐怖と対峙する。それはどれ程の勇気が必要なのだろうか?
俺にも同じ事が出来るのか?恐ろしい相手と向き合った時に…護るために奮起出来るのか?
ーー当たり前だ、俺も、リューを護るんだ!!!ーー
背中が熱い、|神の恩恵《ファルナ》が熱を持っている。
突如、自分の頭に新たな力が宿るのを感じた。この感覚は俺の成長魔法が新しい力を得た時と同じ感覚だ…!
「グルゥ…!!」
ヤツは再び動き出した、どうやらリューの事も倒すべき「敵」と認識したようだ。
咆哮をあげ、ヤツは俺達に敵意を放ってくる!!
ヤツは先程のように骨を飛ばしてくるが、今度は避けられないように全方位に飛ばしてきた。
ラシルドで防ぐ隙を作っても、別方向に回避できないよう。
ーーなら、防がなかったらいいーー
「マーズ・ジケルドン」
俺が放った新たな術は、射線上の奴の骨を全て弾き飛ば
す。
そして、奴の身体の魔法を反射させる装甲を削った部分に当たり、拘束した。
ヤツは鬱陶しそうに身を捩るが、その度に電撃が走り奴を攻撃する
「あれは…?」
リューも初めてみる魔法だからか驚いているようだ
でも、まだ俺の攻撃は続く。
「【第十六の術】
バオウ・クロウ・ディスグルグ!!!
」
現れたるは巨大な龍の爪
ヤツに対抗できるドラゴンの爪だ
「オォォォォォ!!!!」
ヤツの厄介な魔法を弾く装甲を、その爪が引き裂く。
魔法だけど、この魔法は物理的なエネルギーを持っているんだ、お前も弾ききれないだろう?
「ギャァァァァッッ!!!」
「ッ!今なら…!!」
ヤツの変異していた右腕の装甲と爪を引き裂き、その隙にリューが奴の左腕の爪を破壊した。
流石の連撃に奴は怯んだのか、大きな隙を見せる。
その隙に俺は、奴の最後の変異した装甲に駆け出し、左手を添え呪文を唱えた。
ゼロ距離だ…有難く受け取りやがれ!!!
「【第十二の術】
エクセレス・ザケルガァァ!!!!
」
その一撃は、ヤツの全ての装甲を剥ぎ取った。反撃を恐れてラウザルクを使い身体能力を強化し、リューを抱えてその場から退避する。
途端、目の前がクラリとする…精神枯渇《マインドダウン》だろう。もう魔法は撃てない、ヤツに止めは刺せない。
でも俺は、一人じゃない!!
「リュー!!!」
「っ……!!【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々 。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。」
リューは唄う、全ての因縁に決着を付ける為
リューは唄う、今度こそ大切な者を護る為
リューは唄う、新たな未来を切り開く為に!!
「来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】……!!
ルミノス・ウィンド!!!
」
それは……美しい光景だった。
まるで魔法の一つ一つが人間のように動き、ヤツの要所要所に攻撃を加えていく。
人の意思が宿ったように…的確に
そして、ヤツは倒れ伏した。
インファント・ドラゴンの変異種の時みたいに咆哮を上げることなく、ただ静かに…その結果に満足したように、ヤツは倒れ…消えていった。
もう、身体は動かない、ここで襲われたら死ぬだろう…だけど意識が保てない
せめて、リューだけでも…
「リュー、りゅー…りゅ………」
「○○、○○……○……」
俺達は互いに手を握りながら、そのまま意識を失った………。
その後