(バレンタインだからと用意はした。したけれど、どう渡せばいいものか、もし受け取ってもらえなかったら、と色んな考えが浮かんでは消えてを繰り返して、結局渡せないまま放課後を迎えてしまった。
エースやデュースに「さっさと渡してこいよ。ほら今とかどう?」「僕がリーチ先輩を呼んでくるか?」と気を遣ってもらったけど、どちらも大丈夫だからと断ってしまった。
どうしようかな……とぼんやり考えながらグリムと廊下を歩いていたら、向かいからジェイドが歩いてくるのが見えた。思わず指先がびく、と震える)
こんにちは、監督生さん。グリムくん。
今日はもう寮に戻るだけですか?
……では、お帰りになられる前に一つだけお伺いしても?
……その、お持ちになっている物は何ですか?
女性の持ち物に言及するなんて不粋だというのは承知の上ですが……今日、随分と落ち着かない様子でずっと持ってらっしゃったので。
もし誰かに荷物の受け渡しなどの雑用を頼まれた、とかなら僕でもお手伝いが出来るかもしれません。
……言いたくないなら無理にとは言いませんが。
(頼まれごとではないんだけど……どうしよう。上手く言葉が出てこなくて、「えっと」とか「その」とか、意味をなさない声ばかりがこぼれる。それを、足元に居るグリムが呆れた様子でふん、と鼻を鳴らして、肉球のある手でこちらのふくらはぎをぺち、と叩いた。
グリムは何も言わないけど、早く渡せと言いたげな表情なのは読み取れた)
……監督生さん?
(心配そうにこちらを覗き込んでくるジェイドと目が合う。
緊張で乾く喉と震える手を何とか叱咤して、持っている物を差し出した。何かを頼まれたのではなくてジェイドに渡したかったのだと絞り出した声で言うと、ジェイドは切れ長の目を少しだけ丸くした)
……僕に、ですか?
その、これは……バレンタインのプレゼント、ですよね。
いいんですか、僕が受け取っても。
あの、……そんな可愛らしい顔をされると、……特別なのかなって自惚れてしまいそうなんですが……。
(いつもより少しだけ上ずった声で言うジェイドを見上げると、まなじりがほんのりと赤いのがわかった)
……ありがとう、ございます。
大切にいただきますね。
(くるる、という鳴き声がする。ジェイドは気恥しそうに自身の喉を押さえて、困ったような笑みを浮かべた)
……すみません。
嬉しくて、つい、喉が……んん。
お返しは後日……きちんとしたものを、用意させてくださいね。