(畜生、油断した……と、竜胆は小さく舌打ちをした
タコ殴りにあった時にヒビでも入ったのか、背骨やら肋骨やらが咳き込むたびに痛む

たまたま兄の蘭と別行動を取っていた日だった。六本木を離れて、竜胆一人で他の町まで出ていた
買い物などを済ませ、そろそろ帰ろうかと思ったその時、男たちに声をかけられた

確か4、5人いたと思う
竜胆は一人だったが、男たちに喧嘩を吹っかけられてこの人気の少ない公園まで移動した

…が、いつの間にか背後にいたもう一人の男に気づかずバットで思い切り背中を殴られた
そこから全員に殴られ蹴られ、竜胆はなす術もなくボコボコにされた

自分をひとしきり殴って満足したのか、男たちは笑いながら去っていった)

(クソ、クソ、クソ

オレがあんな下らない連中に…!)

(竜胆が悔しさの余り拳を握り締めたその時…)



「だ、大丈夫ですか…?」

(少しでも体を動かすことが億劫で、声をかけてきた相手を睨むように顔を上げた
恐らく自分より年上であろう女が、恐怖と心配の入り混じった表情でこちらを見ている

…無視することにした
今は正直、誰とも会いたくないし話もしたくない
こんなクソ田舎のクソ野郎どもにボコボコにされて、その上通りすがりの無関係な女にまで同情されるだなんて

情けねえ、と竜胆は顔をしかめる

いくらお節介な女でも、シカトしていたらきっとその内どこかへ行くだろう
竜胆は目を閉じて、もたれかかっていた木により体重をかけるように体勢を変えた)

「あの、声が出せないほど重傷なら救急車を呼びますから…」

(プツン、と何かが切れた気がした)

うるせえ!!いいから消えろ!!

(そう大声で怒鳴ると、女は怯えた表情で後退った
大きな舌打ちをし、もう一度「消えろ」と呟く

女はゆっくりと竜胆から距離を取り、とぼとぼと公園から去って行った)

(女がいなくなったことを確認した竜胆は今度は深いため息をつき、眉を寄せた
行きはバイクだったから帰りも当然バイクなのだが、正直今の自分では自転車すらマトモに乗ることができないだろう

兄貴に連絡して迎えに来てもらおうか?
でも油断してボコボコにされたなんて絶対に言えない。言いたくない

どうしようか、と重い頭で考えているとどこからか足音が聞こえてきた
誰かが自分に向かって走ってきている気がする

ジョギング中のジジイでも来たか?)





「……あの!すみません、私帰ろうとしたんですけどどうしても放っておけなくて、今近くの薬局で消毒液とか包帯とか色々買ってきたんで……もし良ければ使って下さい」

(竜胆が顔を上げると、さっきの女が汗だくになってこっちにビニール袋を差し出している

竜胆は目を丸くして女を見た
てっきり帰ったと思っていたので「お前、なんで…」と口に出したらまた怒鳴られると勘違いしたのか、女はサーッと青ざめてペコペコと頭を下げた)

「ほんと、余計なお世話ですよね。ごめんなさい、今度こそ本当に帰りますから。ごめんなさい」

(ここに置いておきますね、と言って女は竜胆のすぐ側にビニール袋を置いた後、一目散にその場を離れていった

竜胆はポカンとしながら、女が去って行った方向を見る。そしてボソリと呟いた)

……変な女


出会い