いつどこで知り合った…いや知り合いじゃねえから違うか
どこでこの女知って、どうして惚れたんだよ。こいつはお前のこと知らないんだろ?
「あー…ほら、一ヶ月くらい前オレがボコられた時…」
ああ、ボコボコにされて「兄ちゃ〜ん迎えに来てぇ〜」って泣きついてきたあの日か
「そんな言い方してねえし泣いてもいねえよッ」
(そういえば、あの日迎えに行った後の竜胆は何となく様子がおかしかった
どことなく上の空というか、ぼんやりしてる感じで何かを考えてるようにも見えた
単にクソ不良にコケにされたのがショックでそうなってるだけかと思ったが…どうやら違ったらしい)
(※ちなみにその不良どもは後日、二人で探し出して十倍返ししてやった。いい気味だ)
「あの日さ…オレがボコられた後、○○がたまたま通りがかって声かけてくれたんだぜ。しかも一度は怒鳴って追い払ったのにまた来てくれてさ…しかも薬局でなんか色々買ってきてくれたらしくて
オレ見てすげえ怯えてんのにすげえ心配してくれてんの。普通はさ、傷だらけで座り込んでる不良に声かける奴なんかいないじゃん。何されるか分かんないし、しかも女だったら尚更怖いと思うぜ
なのに放っておけないからって、オレのためにあそこまでしてくれてさ…本当いい女だよ。滅多にいないぜ、あんなの。帰ってからもあいつのことがずーっと頭から離れなくて、色々考えてたらいつの間にかまたあの公園に行っちまってた。またここ通るかもって。そしたら顔くらい見れるかなって……
そうしてアイツの名前とか知っていくうちに少しずつ好きになっていった。今はもう超スキ。すっげえ惚れてる」
(膝に顔を埋めて、照れながらそう言った
こりゃ重症だな、と蘭は思う)
ふうん。……で、お前はこれからどうしたいの?
「え?これからって?」
だから、その女とどうなりたいんだよ
まさかこの先もずーっとコソコソ付け回していく訳じゃねえだろ?遠くから眺めるだけで満足なのかよ、お前は
「…」
じゃねえよなぁ?だからあんな深いため息が出るんだもんな?
「……でも、でもさ。オレたちってこんなじゃん?で、向こうはあんな感じじゃん?
どう考えても無理じゃね?接点持つの。普通の女が初対面で怒鳴ってきて消えろって言ってきた不良と仲良くなりたいと思うかな」
まあ、普通は思わねえな
「だろ……」
(はああ、と重いため息をついてその場に寝転ぶ竜胆
その瞬間、蘭がある『計画』を思いつき、にやりと口角を上げる)
やっぱさ、手篭めにしちまえば?
「だから兄ちゃん、そんなことしたらオレが嫌われるって…」
違ぇよ。オマエはそれを助ける側
「……どういうこと?」
(むくりと起き上がる)
この女をどっか人目につかない場所まで連れてって、ハダカにひん剥いてやれって指示すればいい
誰でもいいから…そうだな、まあなるべく演技の上手い奴がいいけど。俺らの周りにいる不良に頼んで手伝ってもらえよ
勿論本当にヤッちまう訳じゃなくて、ギリギリ一歩手前で止めに入ってさ
どうよ。我ながらナイスアイディアじゃね?」
(竜胆は渋い顔をしている)
「でもよ、もしバレたら……」
バレなきゃいい。不良たちにも口止めしておいて、あとはお前さえヘマしなきゃ一生バレねえよ
「……あんまり、怖がらせたくないし」
物凄く怖い思いをしてる最中に自分を救ってくれる奴が現れたら絶対惚れるだろ。少なくともいい印象を持つのは間違いないと思うぜ
それにほら、ヒーローは遅れて登場するもんって相場が決まってるし?
(なんてな♡と笑う蘭)
「……だけど、」
竜胆お前さっきからでもでもだけどってうるせえんだよ
てめえ、一生このままでいいのか?あ?
そいつに男が出来たときも遠くから指咥えて見てるつもりかよ。なっさけねえ
「……っ」
それによ、第一印象サイアクだった男に助けられたらきっと滅茶苦茶好感度上がるぜ
お前「初対面で怒鳴ってきた名前も分からないどこぞの不良」ってイメージ持たれたまま終わっていいの?
カノジョを助けたのが切っ掛けで連絡先交換できたり、家に呼べたり、トモダチかそれ以上の仲になることだって可能かもよ
竜胆くん♡って名前で呼んでもらえたりなー
「……!」
(表情の変わった竜胆に、蘭はほくそ笑んだ
近頃、面白いことがなくて退屈していた
不良とケンカしても手応えのない奴らばっかだし、寄ってくる女はどいつもこいつもナリを着飾ってるだけでクソつまんないし、何事もない平和な毎日に飽き飽きしていた
そんな中、いつもと違ったのは弟だけだ
最初はストーカー話を聞いていて少し…いやかなりドン引いたが、よく考えたらこんな面白いこと滅多に起きるものじゃない
今よりも更に面白い展開になればもうしばらく退屈しないだろう
蘭はそう考えた)
俺のほうから誰か適当に選んで話つけておいてやるよ
あ、そうだ。あとあと役に立つかもしれないから、一応写真撮っておけば?
「写真?」
ハダカの写真♡
「なっ…!」
いざって時のために、脅しの材料は必要だぜ。バレたら警察に駆け込まれるかもしれないじゃん?
パクられること自体は今更別に怖くねえけどぉ、その女と離れ離れになるのはお前だって嫌だろ?
「……っ」
なぁに、大丈夫。万が一の時のためだよ
(そう言って笑う蘭に、竜胆は何も言わなかった)
そして…