(「あの日」から4週間。そろそろひと月が経とうとしていた

竜胆は、はぁ、と重々しいため息をついた
ソファに座っていた蘭が振り向く)

最近オマエどーしたの?

(蘭は、ここ最近の竜胆の様子が気になっていた
暇さえあれば「ちょっとオレ出てくるわ」と言って一人で外出し、帰ってきたと思ったら神妙な顔でため息をついたり、かと思えば頬を染めて携帯の画面を見たり……それはもう不審な動きばかりしていた

何かあるな、とは思っていたがここ一週間は特にヒドイ
あからさまに元気がないというか、何か悩んでいるように見える

一体、弟の身に何が起きたと言うのか
兄の自分には知る権利があるだろう)

(竜胆は、ぽーっとした目をしたままこっちを見た

なんだその顔は。そんな目で兄貴を見てくるんじゃねえ)

「兄ちゃん… オレ、オレな」

うん

「オレ……好きな奴、できた」

は?

(ぼっ、と頬を染めて小さく呟く竜胆に対し、蘭は眉を寄せて素っ頓狂な声を出した

今、なんて言った?
好きな奴ができた?

普段は自分に寄ってくる女連中を鬱陶しがっている竜胆だ
好きな女ができるなど非常に珍しいことだが…まあ、有り得ない話ではない

蘭は「だからか」と、ここ最近の竜胆の態度を思い返して納得した)

へえ…それはオメデト

(興味なさそうな声でそう言うと、竜胆は「めでたくねえんだよ」と再び項垂れた)

なんで?その女に彼氏でもいんの?
ボコっちまえばいいのに

「いやそういう訳じゃねえけど…つーかそんなことしたらオレが嫌われるだろ」

まあ確かにそうだけど、そんなの手篭めにしちまえば関係ねーじゃん

「……兄貴……」

(竜胆が何とも言えない顔で蘭を見る

倫理?常識?そんなもの、今更知ったことか)

「……そんなこと出来ねえよ。オレは○○に嫌われたくないの」

へえ、○○って言うのか
可愛い系?美人系?

「……どっちだろう。オレにはやたら可愛く見えるけど、他の奴から見れば正直どっちでもないような……うーん、フツー?」

はあ?写真とかねーの?
見せろよ

「うん、これ」

(どれどれと竜胆の携帯の画面を覗き込むと、そこには女の横顔が映っていた
蘭はスッと目を細める

なるほど、確かにフツーだ。特別美人でも目を引くようなオーラがあるわけでもない
一般女性AとかBとか、そんな感じの女

……それよりも、この写真を見て気になることがある)

なんで横顔?しかも遠くね?
これじゃ隠し撮りみてぇじゃん

「…」

(竜胆は何も言わなかったが、気まずそうに蘭から顔を逸らした
蘭は驚いて目を見開く)

おまえ……まさか、

「……」

ストーカーしてんのか!?

「っだあ!!声がでけえよ!!」

(しーっ!しーっ!と口元に人差し指を当てる竜胆の声も同じくらい大きいということに、二人とも気づかなかった

蘭はポカンと口を開けて弟を見た
視線の居心地の悪さにチッと小さく舌打ちし、眉を寄せた竜胆が膝を抱えてボソボソと喋り出す)

「や…ストーカーっつーか、あいつにバレねえよう静かに付け回してるだけだし」

ストーカーじゃねえか。付け回してる、って自分で言っちまってんじゃん

「ち、違ぇよバカ!付けてはいるけど、そのことであいつを怖がらせたり迷惑はかけてねえ!」

(だからストーカーじゃねえ!と言い切る竜胆
蘭は何だか頭痛がしてきて、目頭を押さえた

おいおい、勘弁してくれ
よりによって自分の弟がストーカーだなんて…)

……で?後はどこまで知ってんの、お前

「え?ええっと、まず一番先に住んでるトコを調べて郵便物から名前を知って、職場と通勤時間…くらいかな?
誕生日とか歳もいくつなのか知りたいけど、働いてるしオレより年上なのは確実

あっ、ほらこれ見てくれよ兄貴!散歩中の犬撫でてニコニコしてる顔!
急いで撮ろうとしたからちょっとブレちまったんだけどさ、めちゃくちゃ可愛くね!?オレもこんな風に笑いかけられて触られてえ〜!オレこれ毎日20回は見てるわ。ちなみに今の待ち受けにも設定してる」

………。

(お前、犬と同じ扱いされたいのかよ…

蘭はそう思ったが、あえて口には出さなかった)


とある日1