「やっぱり、二人のことは許せない」

 キッパリそう言うと、彼は綺麗な紫色の瞳に再び涙を浮かばせた。手のひらに爪の跡が残りそうなほど強く拳を握り、歯を食いしばっている。
 壁に寄りかかって座っていた蘭さんも、無言で自分の膝に顔を埋めた。

 絶対に、許せない。……だけど、

「……! ○○……?」

 一歩前に出て、暗い表情の竜胆に近づく。そして彼の手を自分の両手で包み込んだ。

「ふたりの傍に、いてあげる。こんな悪い子たち、誰かが側にいて叱ってあげなきゃね」

 そう言って笑いかけると、彼はぽかんとしながら私を見た。顔を上げた蘭さんも驚いた表情をしている。
「蘭さんもおいで」と手招きすると、少し迷ったようだが、そろりと立ち上がった。
 困惑した様子のまま、私と竜胆を交互に見ながらゆっくり近づいてくる。こんなに戸惑ってる彼を見るのは初めてかもしれない。……ちょっとかわいい。

「ほら、二人ともギュー」

「うわっ!」

「ッ……!」

 兄弟まとめて抱き締めると、相当驚いたのか二人ともよろけた。
 背中に腕を回し、ぽんぽんと撫でてあげると二人とも大きな体を丸めて何が何だか分からないと言った感じで狼狽えている。

「ちょ……○○さん? ナニコレ……なんか恥ずかしいんだけど」

「そうだぜ、○○。お前一体どうしたんだよ……オレらに騙されていたショックでおかしくなっちゃった?」

「うるさい。いいから二人とも私の真似してギュッてしなさい」

「ええ……?」

「ギュッて……」

 こう……?と恐る恐る二人が背中に腕を回してくる。
 三人で抱き合ってるので、私は竜胆と蘭さんに。竜胆は私と蘭さんに。蘭さんは私と竜胆に。

 私が二人の背中をずっと撫でてると、やがてこっちにも回されていた腕の力が少しずつ強くなってきた。
 そうしているうちに、二人が泣き始める。一人はわんわんと声を上げて、もう一人は声を押し殺して静かに泣いている。回されている腕の力が強くて背中が痛いけど、今は我慢。

 大人っぽく見えても、どんな悪さをしていても、やっぱりまだ子どもなんだなぁ……。
 そう思うと何だか少し嬉しくなって、二人にバレないよう小さく笑った。


「やっぱり、二人のことは許せない」